2017年3月から始まった当欄のコラムも、早くも1年を過ぎてしまった。リテンション・マーケティングとネット環境について、気になっていることやトピックスを書いてきた。そもそもリテンション・マーケティングという考え方を始めたのは、人口が減少していく社会では顧客も減少してしまい、今いる顧客を大事に育成していかないと経営が成り立たないと考えたからである。昔、携わっていた通販の世界で「キャッチ&グロース」(ゲームフィッシングの「キャッチ&リリース」のもじり)という言葉をクライアントに語り、顧客獲得と顧客育成は不可分であり、育成なくして利益の回収はできないと説明してきた。

顧客育成の最終段階は「アドボケーター」に仕上げることである。「アドボケーター」とはもともと医療用語で、意思を伝えることが困難な患者の声を代弁する人のこと。マーケティング上では、企業や商品のことを代弁して推奨してくれる顧客層として位置付けた。

1年を振り返って

わが国には「商いの極意」は「飽きられない事」と云われてきたという説がある。「商い」=「飽きない」であり、最初に店頭やECサイトに来てくれた人を「招待客」として迎え入れ、初回購入者を「一見客」、複数回の購入者を「得意客」、何年も継続してくれる購入者を「馴染客」とし、最終的に自社の商品を知人・友人に紹介してくれる「贔屓客」と育て上げていく。商いの言葉では「アドボケーター」とはこの「贔屓客」の事に他ならない。我が国の商いの世界では当たり前の概念であった。

しかし今は、大量で詳細な情報がネットで収集できるようになってきており、「贔屓客」の言葉もの情報の一つにすぎなくなってきている。商品選択の決定要素は、他人からの評判であったり、「いいね」の数であったり、ポイントやクーポンと云った実利に根差す施策であったりする。近頃は評判よりも実利を選択し、好きではないが得をするので続けているという顧客も増加している。顧客の絆を深めロイヤルティを高めなくても、いつまでも継続してくれる顧客を生み出すことが可能となった。この概念を「ボンド」(bond=企業と顧客の接着剤)とか「顧客ロックオン」と呼んでいる。消費者心理学的には「人質ロイヤルティ」と呼び、好きでないのに離れられない心模様を表している。例を挙げれば「ポイント制度」である。当初は利便性で加入したのが、継続により得をするので好きでもないのに続けている顧客が大勢いる。今後のロイヤルティ構築は心理面と行動面の両面を考慮しながら進めていく事が必要な時代となってきたと云える。 顧客の心理面、行動面のすべての鍵を握っているのは顧客の行動データと伝達力のあるネットである。顧客の嗜好や購入データをベースに、多頻度・高効率・即時性を持ってアプローチするネット。遅ればせながらわが国でも、2018年はデータドリブンマーケティングが加速し、そこから生まれた知見をネットで運用していく年になるであろう。

筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月  株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月  株式会社価値総研取締役
2009年4月  株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月  アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月  日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)

お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局