以前、化粧品会社の通販部門をお手伝いした事がある。化粧品会社を立ち上げた30年前は、デパートをメインにして販路拡大に注力し、30年間で年商60億円ほどに成長していた。21世紀初頭から化粧品販売に占める通販の比重が増加してきたため、その会社も通販分野にも参入した。しかし、店販と通販のビジネスモデルの違いを吟味することなく参入したために、その後大きな後遺症を残すことになり、通販部門の強化を依頼された。

ネットはどこへ

そこで、顧客情報の活用方法と接客方法は店販と通販では質・量ともに大きな違いがある事を認識してもらう事から始めた。店販で販売ノウハウを磨いた会社は、顧客情報は店頭での「おもてなし」をベースにした感覚的な運用が主体で、店舗側からの働きかけよりも顧客の都合によって来店の頻度が変化してしまう。イベントやプレゼントと云った販促施策を実施し、来店を促進してはいるが最後は客の気分次第である。一方、通販はコンタクトセンターから得られる定量的なデータを下敷きにして、イベントやオファーと云った刺激を主体的に発信ができ、頻度向上の情報設計が可能である。顧客情報を基にした顧客とメーカーとのエンゲージメントを図りながら、初歩的なリテンション・マーケティングを実施することが通販のビジネスモデルの原点である。

その後、店販と通販の顧客情報や販売システム一体化させ、効率的にビジネスを運用しようとしたが、ビジネスモデル自体の差を埋めることが出来ないうちに、通販そのものが新聞・TV・DM・チラシ等のリアルからネットへ移行し、機器もパソコンからスマホに移行してしまった。もはや「ネットで買っている」っていう意識すらなくなってきているように感じる。 近年のネット商取引に進化はすさまじいものがあり、平成から令和になった2019年後半にはどうなっているのか予測するのすら難しい。10月の消費税増税時にはキャッシュレス化によるデジタルマネーの流れが加速し、商取引も大きく変化していくだろう。商品の供給も「販売から使用」の流れが顕著となり、サブスクリプションモデルが徐々に浸透していくと予測される。商品とお金の関係も「販売=都度回収」から「使用=長期に渡って回収」になっていき、消費者も「購入顧客からサブスクライバー(加入者)」に変化すると捉える事が必要である。デジタルで処理するものは全てデジタルに任せるという方法が定着する事によって、供給者である企業と使用者である顧客は常に接触し続ける事が可能となる。令和の時代には企業と使用者が関係性を深めていかざるを得なくなり、リテンション・マーケティング第二世代が始まる。

筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月  株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月  株式会社価値総研取締役
2009年4月  株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月  アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月  日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)

お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局