先月、ネット・デジタルマーケティングについて書いたので、もう少し深堀してみる。ここ数年話題となっているキーワードを並べてみると、CRM、EC、CPR、CPO、PDCA、定期購入、セット割り、サブスクモデル・・・と並べきれない。このコラムを読んでいる方はECが主流となってからマーケティング分野に入ってきた方が多いと思うので、これらのワードをネットやECの世界で生まれたと思っているだろうが、これらは20世紀の通販、特に単品リピート通販の黎明期から使用されてきた言葉である。

デジタル世代に告ぐ

単品リピート通販で、広告等によって最初に獲得する顧客を試用顧客と呼び、投下広告費÷試用顧客=初回試用率がCPRのことである。次いで投下広告費÷新規購入者=新規顧客獲得率がCPOのことである。新規購入者を継続顧客に引き上げ、継続顧客を安定顧客に定着させるために、顧客に対してコールセンターのオペレーターが電話したり、顧客対応部門から顧客の誕生日や記念日等のイベントに合わせてDMを送付したりしていた。これがCRMである。これらの施策を費用対効果の側面から分析し、効果の高いものを選択していくというPDCAも採用していた。その結果、継続化した顧客に対して、より安定化させるために活用した施策が定期購入制度である。現在のサブスクモデルの出発点となっている。自社の扱い商材をまとめて販売する事は、クロスセルの常套手段としてセット割りと呼ばれていた。今、ECやデジタルマーケティングの世界で話題となっているキーワードは、その殆どは通販モデルを原型として発展し拡張してきている。

ネット&デジタルマーケティングの世界の中でPDCAを手法として始めると、実施施策に対する費用対効果、効率的運用ばかりに目が行き、担当範囲内の指標改善に終始してしまう。勿論、指標改善は重要であるが、企業経営やブランド育成の全体像から離れてしまう。通販企業が様々な施策を組み合わせる事により、最終的に求めていた経営の成長と安定、ブランドの育成という最終目標に行きついたように。 ネットとデジタルのマーケティングの専門家は担当範囲内での改善を目指すだけでなく、視野の拡大を念頭に置いて「ブランドづくり・商品開発・ファンづくり・企業の成長」等のビジネスの核となる領域まで目を配る事が必要である。ネットとデジタルの世界では、顧客情報が瞬時に入手でき、分析ツールも充実しているからこそ、顧客との関係性を密にして経営課題に切り込む部門へ成長していかなければ、マーケッターとしての成長も、マーケティング部門としての成長も遠ざかってしまう。ネットとデジタルのマーケッターとして顧客との関係性を活用し、自分の会社を俯瞰できる広い視野と深い洞察力を持たなければ、マーケティングの近未来を生き抜くことが困難になってしまう。

筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月  株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月  株式会社価値総研取締役
2009年4月  株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月  アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月  日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)

お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局