今、一昔前のマーケティング理論を追っかけている。通販ビジネスのコンサルやサポート業務が主戦場となっていた時期が続いたから、マーケティング全般について考える機会が少なくなっていた。数年前からリテンション・マーケティングの重要性に気づき、再度マーケティングのベースである「市場環境、競合関係、顧客対応」等の古典的マーケティングを見直す必要があると考えたからだ。

まず、いま検討しているリテンション・マーケティングを出発点として、顧客の心の中にあるブランドロイヤルティやエンゲージメントを考えながら、心の形成過程のカスタマージャーニーと進み、カスタマーエクスペリエンスに到達した。これは一昔前のマーケティング手法である経験価値マーケティングに近い概念であることに気づいた。

実証実験

2000年当時、在籍していた会社が経験価値マーケティングを提唱したコロンビア大学教授と顧問契約を結んでいたので、教授のセミナーを聞いたり面談したりして知識を深めていった。反面、経験価値マーケティングが機能する場面は、経験が体感できる場所が必要であるため、滞在型の施設(ホテル、アミューズメントパーク、ゴルフ場・・・)や航空会社しか適用できないという宿命があった。個人の経験をダイレクトに伝えるというSNSもまだ普及していなかったので、当時は活用できる機会が少なく運用が限定的になってしまった。今ではスマホの普及拡大や5Gへの進化によって、ユーチューバー等による経験の伝達がより高速でより濃密に展開されることが可能となった。

経験の違いによる態度変容を明確にしようと、弊協会では「デジタルとリアルの併用」の実証実験を開始した。両者を併用することによる効果が高いことは、今まで各社で実施された施策等で明らかになっているが、実際のデータが開示されていなかった。今までの定性的な結論では、リアルとデジタルでは反応する集団が違うこと、リアルで反応した集団の継続率は高く、ライフタイムバリューも高くなることがわかっている。しかし、どの程度高くなるのか?投下費用は回収できるのか?の疑問に関しては明らかにされていない。 今回の実証実験は体重計や体組成計の 「健康管理機器メーカー」を核にして、その販売をサポートする「制作チーム」「印刷チーム」「配布チーム」のリアル施策者の4者に集まってもらった。それぞれの会社の得意分野での施策を練りアップセル施策のツールを作成し、①メールのみが届く集団②メールとDMが両方届く集団③DMのみが届く集団に区分し、それぞれの集団でのオーダー率の差異や継続率の差異を明確に把握できるよう全体図を設計した。本稿の掲載される時期にはツールの配信と配布がスタートしているので、結果については逐次可能な範囲でお伝えしていこうと思っている。

筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月  株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月  株式会社価値総研取締役
2009年4月  株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月  アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月  日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)

お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局