9月の本稿で「ブランド・ブランディング」が再度脚光を浴びていると書いた。近頃、また20世紀末に流行った言葉を聞いた。歴史は繰り返すとか、出来事は輪廻転生で螺旋階段のように進化していくとか言われているが、こんなことに度々出くわすのは珍しい。

 1993年に「ワンツーワン マーケティング」に関する書籍が米国で発売され、1995年に翻訳版が日本で出版された。業務に必要であったため購入して読んでみた。理論はすんなりと入ってきたが、どうやったら実現できるの?と云う疑問と、実現するには膨大な費用が掛かり使えない!と直感したことを覚えている。20世紀末では理論倒れに陥っていた言葉が、テクノロジー特にネットの急激な進化によって、理論が現実に追いつき実施できるようになったことが、2016年に継続本を出版した理由であろう。

ワンツーワンが可能となった!

そもそもワンツーワンマーケティングとは、各個人のニーズ/所得/嗜好/購買履歴等にあわせて展開する個対応のマーケティング活動のことであり、マスマーケティングとは対極をなしている考え方である。読んでから約25年後、IT技術の発達やネットの普及に後押しされ、2016年に同じ著者が実態と理論を融合させた新刊を出版した。約25年の歳月は顧客を取り巻く環境を激変させた。その一例が、MA、AI、ネット、チャットを駆使したメールマーケティングである。顧客はあたかも自分向けにパーソナライズされた情報が提供されているのだと錯覚させるまでに進化してきた。旅行会社やお悩み相談サイトのサービスで活用され始めている。

1993年版に提唱されていたワンツーワンの本質「顧客との関係性を重視した経営は、企業収益を向上させる」は2016年版にも引き継がれ変わっていない。大きく変化しているポイントは、顧客との関係性を構築するツールとして、昔は電話やDMしかなかったのが、今回はSNSに焦点を当てていることである。2016年に書かれた本であることから、SNSと云っても2014年~2015年にブームとなったツイート手法が主たるものである。現在でも某国の大統領が頻繁に発信したりしてグローバルに影響力を持っている。わが国の場合は世界に向かって発信というより、友人関係の中で趣味や自慢を語り合うリア充拡散ツールに変わってしまっていたり、会合等の連絡事項を交換し合うツールであったり、写真投稿や顔認識スタンプを使用した趣味的で個人的な運用が主体であったりしている。 新刊はグローバルなSNSを意識して執筆された本であるため、我が国のSNSの常識とはチョット違うことに注意して読み進めることが必要であった。初めて発表した理論から約25年。IT、MA、AI、ネット、SNSの進化が下敷きとなった具体論が語られており、理論と実態が一体化してきたことが伺われる。ワンツーワンマーケティングが現在のビジネス世界の中で運用できるようになってきたことを宣言している書籍である。

筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月  株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月  株式会社価値総研取締役
2009年4月  株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月  アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月  日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)

お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局