お盆と帰省の季節が終わった。筆者も10年ほど前までお盆に帰省する事が年中行事の一つであった。帰京する段になると、老親の健康や緊急の際の対応に心を配っていたことを思い出した。当時、遠隔地からの健康状態を確認する手段は「魔法瓶を使う方法」とか「トイレの扉の開閉を使う方法」という日々の行動確認があった。もっと流行するかと思っていたが、「魔法瓶」「トイレの開閉」による確認は商品購入のイニシャルコストが必要だが、ランニングコストは通信料のみであったため、販売したメーカーに継続的な利益が確保できなかったようでいつの間にか消えてしまった。老親が故郷に住んでいて、子供たちは都会に住んでいる。昔と同様に心配は老親の健康状態や危機管理である。今では警備会社が「見守り」に特化したサービスを提供していたり、「見守りサービス」を専門に扱うIT企業も出現したりし始めているが、最近新しい「見守り」ケアの話を聞いた。
高齢者ケアとリテンション
「見守り」ケアについてあるコーヒー供給メーカーが長野県でテストを実施している。コンセプトは「離れて暮らす家族をそっとつなげ、さりげなく見守る」だそうだ。コーヒーを淹れる機器とタブレットをリンクしたセットを老親のもとへ提供し、都会の子供たちは自分のスマホでタブレットからの情報を受け取る形を採用している。老親に金銭的負担を掛けないように、支払いは老親か子供たちかの選択もできる。老親がコーヒーや茶飲料を淹れると、タブレットから都会在住の子供のスマホに今日も淹れているよとスタンプ表示される。子供たちは老親が今日も元気だと確認でき、数日間スタンプが来ない等の異変があればスマホからタブレットに問い合わせが出来る。このサービスが成功しているポイントは、老親が消費するコーヒーや茶飲料の量をメーカーが通信によって確実に補足できること。不足すれば補給すると云う現代版の置き薬方式を採用していることである。メーカーは定期的に販売することにより収益を確保しつつ、継続的な定期顧客に育成できる。
老親と都会の子供たちの安心感を企業が提供すると云う社会貢献活動により、ブランドロイヤルティを育成しながら、継続的な販売を達成していくサービスは、今までにない「見守り」の世界を切り拓いたと云える。収益を継続的に確保しながら、関わる顧客の安心感と社会貢献を担保していくケアサービスの登場は「つながる・安心・社会貢献」と云う評価を獲得し、ブランドロイヤルティを老親と子供たちの両方で向上させ、既存顧客に継続消費をさせるというリテンション・マーケティングの要素がすべて詰まっている。
筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月 株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月 株式会社価値総研取締役
2009年4月 株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月 アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月 日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)
お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局