前月に引き続いてロイヤルティの話をしよう。ロイヤルティを語る時、昔の商いで用いられた「おもてなし」の手法が有効ではないかと考えている。昔の商人は「一見客」を「贔屓客」にするために、顧客のかゆいところに手が届くような、言い換えれば顧客の琴線に触れるような対応をしてきた。「おもてなし」は2020年の東京オリンピック招致の際にも功を奏したことは記憶に新しい。
「おもてなし」は「客をもてなす」といった時に使われる「もてなす」を丁寧に表現した言葉である。そして、「もてなす」は、「モノを持って成し遂げる」からきている。ここで言う「モノ」とは顧客に提供する商品という物質面だけでなく、顧客と接する時の扱いや待遇という情緒面の両方を指している。もう一つ付け加えるならば「表無し」の字の如く、表裏がない心と態度で顧客に接することでもある。
おもてなし
「おもてなし」を具体化する時に必要な事は、顧客を想定外の世界に誘い込むこと。顧客の想定していることを事前期待値と呼び、その期待値を満たすことによってロイヤルティ形成のスタートラインに立つことが出来る。期待値以下ならば勿論ロイヤルティどころの話ではなくなってしまう。「おもてなし」によるロイヤルティ向上は、期待値以上の感動や驚きという世界に顧客を誘わなければ達成できない。
ロイヤルティの形成を図るためには、事前期待値の最低ラインを製品特性(効果・効能・機能)、店舗応対(外観・店員・コールセンター)、顧客間の評価(広告・クチコミ・評判)の三つの分野で設定する事が最初の段階である。次いで顧客を刺激する施策開発に移行するが、この時考えなければならない事は「売りの姿勢」を意識の外に置くことと顧客の誉め言葉やSNSのイイネ!という「見返り」さえも求めないことである。丁寧な上にも丁寧に顧客を満足させることである。
個人的な話になるが、出張で行ったイタリアのホテルで誕生日にバースデイカードと花束が部屋に置かれていたことがあった。チェックインの際にパスポートを提示したことで分かったらしい。その時はとても感動し、そのホテルへのロイヤルティが誕生した瞬間であったと思う。その後、個人的に再訪する際にもそのホテルを予約し宿泊した。
顧客とのつながりを維持しつつ、様々な局面で顧客の事前期待値以上の感動や驚きという刺激を丁寧に提供し続ける。21世紀のリテンション・マーケティングは、わが国で芽生え始めた「絆とおもてなし」でロイヤルティを形成し、さらなる向上を目指していく方向に進むだろう。
筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月 株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月 株式会社価値総研取締役
2009年4月 株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月 アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月 日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)
お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局