デジタルマーケティングの本や記事を読むと、AIとビッグデータが花盛りである。論調は明るい未来の話として語られ、ビジネスが格段に進展するかのように主張しているが本当だろうか。わが国に限って言えば、AIもビッグデータもここ数年は期待ほど役に立たないし、誤った方向に企業や社会を誘導するのではと思っている。

AIから話を始めてみよう。AIとは機械に人間の脳のように何層ものレイヤーを通して学習していくディープラーニングの仕組みである。情報を機械にインプットし、既存の解決策の中で最良の回答を選択しアウトプットしてもらうことが基本的な流れである。ただ情報と回答を機械に与えるのは人間である。正しい情報を見極め、正しい回答を提供する能力が人間に無ければ、AIは間違った判断や予測を行ってしまう。医学情報のように今まで研究され、論文として評価されている分野ではAIによって短時間にアウトプットできるが、情報と回答の少ない分野ではここがボトルネックになると考えられる。

AIとビッグデータで迷走?

情報の定義と運用ルールを設定し、正しく情報と回答を提供しなければならない。定義なしの情報やルール無視の回答を与えたらAIはどうなるのか。正しく学習させてもらえなくて迷走するAIが日本中に溢れ、間違った予測で企業を間違った方向に誘導してしまう。

ビッグデータに話を移しても同じことが云える。ビッグデータ運用の根幹は、一人一人の行動の記録とお金の動きである。わが国では紙幣の安全性が担保されたため現金信仰が強く残り、個人では現金決済をする層がまだ多く存在している。決済手段も現金・クレジットカード・デビットカード・交通系カード・QRコード決済が混在している。私個人の場合でも金額の大きくなる場合はクレジットカードを利用し、少額の支払いは交通系カードを使用している。中国のようにスマホによるQRコード決済が主流となっていれば、個人の購買状況や行動の把握が容易にできる。我が国の場合、ビッグデータを保有している企業が業界ごとに存在するので、個人を集めたデータもミスリードしてしまう恐れが多分にある。ここでも迷走する企業の発生が懸念される。

新しいから、便利だからと云って盲目的に活用しようとするのでなく、まずどう使えるかの仮説を立てて、出来る事・出来ない事を判断する。自社の現状を見直しながら、情報と回答が揃っているところから着実に始めていくのが成功のポイントである。AIとビッグデータの両方ともネットマーケティングとは親和性の高い分野だからこそ、ネットマーケティングの専門家として時代を切り拓いていく責務がある。

筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月  株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月  株式会社価値総研取締役
2009年4月  株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月  アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月  日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)

お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局