わが国の企業は新規顧客獲得には熱心だが既存顧客の育成と維持には無頓着。広告会社に勤務していた頃は「新規顧客獲得=顧客獲得のための広告出稿=広告会社の売上達成」の連鎖が頭脳深くに刷り込まれ、新規顧客獲得が使命であったが、ここ数年は新規顧客獲得コストが高騰していく中で、ダイレクトマーケティング企業は、マーケティングコストの安い既存顧客維持に注力していくと思っていた。しかし、ほぼすべての企業で既存顧客重視のリテンション・マーケティングより、新規顧客獲得重視のマスマーケティングが優先されている。リテンション・マーケティングの話を聞き、活用を前向きに検討してくれたのは、外資系企業ばかりであったと記憶している。どうもその根底には、我が国に蔓延している「釣った魚にはエサはいらない」的な発想や「マーケットシェア重視」の意識が深く根ざしているのが原因ではないかと思っている。

釣った魚にエサはいらない?

通販コスメ、通販サプリ、通販保険の担当者と会議を重ねるうちに、既存顧客については「めったなことでは浮気しない」という安心感があり、リテンションに関しては「今までの実施してきた施策を継続しているから大丈夫」と過信がある。おまけに既存顧客には「定期的に配布物を送りコンタクトしているからブランド変更はない」という油断と、「CRM部門やコールセンターで様々な対応してくれている」という他部門依存が重複して存在している。

もう一つの要因は「既存顧客の維持活動は企業の中で目立たないため、評価されず出世できない」という不安感ではないかと考えている。リテンションは経験したことがないが、新規顧客獲得に関しては今までの活動の中で発見した「効率化や省コストで新規顧客獲得できる知見とノウハウ」があるため安心して施策を打てる。失敗しても前例を踏襲したと云い訳が出来る。過去の成功体験に縛られた発想が根底にあると感じた。 わが国はこれから人口減少市場を迎えることが大前提であり、各社ともに新規顧客獲得の数は比例して減少していく宿命にある。顧客減少・販売減少に直面してからの対応では間に合わない時代に差し掛かっている。今ですらSEO対策やリスティング広告などのWEB集客で「獲得単価が合わない」「獲得数が頭打ちしている」の悩みが顕在化している。今から既存顧客を重視し既存顧客の離反を防ぎながら継続を向上させるというリテンション・マーケティングに注力していくのが最善策であると言わざるを得ない。ネットがコミュニケーションの主役になった今、顧客の変化は容易に判別できるし顧客維持コストもますます安価になっているのだから。

筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月  株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月  株式会社価値総研取締役
2009年4月  株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月  アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月  日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)

お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局