今、マーケティングの世界に大きな変化が生まれようとしている。立っていた地面が大きく揺れ動いているようだ。バリバリのマーケッターだった頃、マーケティングは「売れる仕組み」をつくる事、ブランディングは「売れ続ける仕掛け」を展開する事と定義し、後輩に指導していた。マーケティングもブランディングも、「売る」ことを基本として「儲かる」ことを目指し、利益確保をベースにした企業活動を実施してきた。そんな中で、2015年9月に国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)という考え方が採択され、国連加盟193カ国が参加する事になったとのニュースを見た記憶がある。当初は開発目標という言葉に惑わされ、企業のマーケティングへの影響を考えていなかった。
そもそもSDGsは、「貧困・教育・平等・気候変動・働きがい」を解決し、経済成長を達成しながら持続可能な社会にすると云う17の大目標と169の到達目標からなっている。あまりに広く、あまりに細かくなっていたため、企業活動にどう影響してくるのか混沌としていた。おまけにわが国のSDGsアクションプラン2019を見てみても、★SDGsと連携する「第5世代のソサエティー」推進★SDGsを原動力とした地方創生と環境にやさしいまちづくり★SDGsの担い手として次世代・女性力の強化、とマーケティングに直接結びつくものではないと考えていた。
「売れる」のが正義か?
ところが、ビジネスの世界で最もシビアといわれる投資家たちが、SDGsに沿った動きを模索し始めており、「儲けばかりじゃダメだ」「もっと環境や社会にいいことを」と発言し始め、「儲けの手法」としてSDGsを捉え始めたという動きが出始めた。持続可能な社会を無視した企業に投資するよりも、持続可能な社会に貢献する企業に投資したほうが儲かるよ!という動きである。
その結果、マーケティングが「売れる仕組み」から「社会の持続を基本とし、企業の継続性を担保した売れる仕組み」が必須の概念となった。これからの10年で「持続」を念頭に置いた企業経営にガラリと変化していくと思われる。直近の例では、大手コンビニが「夏のうな重、冬のクリスマスケーキ」を予約者だけに販売するという方針を打ち出した。食品ロスを少なくして、業態の永続性を担保するためである。これが今、ビジネスで起こっている地殻変動で、「売れる」「儲かる」だけを目指したマーケティングを変化させつつある。
メディアやWebの中で変化が認知されるにはもう少し時間がかかるが、変化していく事は確実である。企業経営者や戦略部門ではSDGsへの対応について研究を始めているが、「売れる」を求めるマーケティング部門の人たちはまだ気づいていない。ネットマーケッター、ダイレクトマーケッターも「売れること、儲けること」だけが正義でなくなり、SDGsをどう取り入れるかを考慮しなければならない日が迫っていることを肝に銘じておくべきである。
筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月 株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月 株式会社価値総研取締役
2009年4月 株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月 アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月 日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)
お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局