元号が令和になったからではないが、マーケティングの方法論を見直している。モノがあふれているとか、メーカーの作り出す商品はみんな同じとか、差別化が出来ていないとか言われている。経営者・開発者・販売者は盛んに「消費者に選ばれる商品づくりを!」と訴えてはいるが、残念ながら突破口が見えない状況だ。グローバルに見てみれば、多くの国々が良質の商品を適正な価格で販売できる時代になった。モノ不足の時代であれば、メーカーが市場の主導権を握ることもできたが、モノが充足してきた時代は市場の主導権は消費者が握ってしまう。そうなると、消費者が何を望んでいるか、何に困っているかなど、消費者視点で考え、商品を開発していく必要が出てくる。そうした市場の大変革に合わせた思考方法や経営手法が必要になってきた。
デザインベース
そんな中で「デザイン思考」や「デザイン経営」と云う言葉を聞いた。「デザイン思考」とはデザイナーがデザインする時の思考プロセスに則り、今までにない問題や未知の課題に対して解決策を発想すると云う方法論である。
昔の任侠映画や捕り物映画を見ていると「絵を描く」と云う言葉が多く出てくる。何か物事が起こった時の解決の方法として、全体を俯瞰し解決に至る道を直線的に描く方法である。私の周りにいた優秀なデザイナーやクリエイターはこの「絵を描く」能力が抜きんでていた。彼らは会議の最中に突然「閃いた!」の言葉と共に、解決のデザイン・コピー・プランを描き出していた。マーケッターとして私もこの方法を活用させてもらった。マーケティングと云う特性上、ロジカルシンキングが基盤となるが、最終段階でこのデザインシンキングの方法を活用してきた。
まず、消費者のニーズや課題を分析し、競合との差別ポイントを探していった。ここまでは通常のマーケッターの方法であるが、最後に思い切った「跳んだ案」を出していく。この思い切った案を出すことを「感性ジャンプ」と呼んでいた。ジャンプに必要な踏切台は、正しいとかベストではなく消費者の感動をエネルギーとすることであった。正しいとかベストと云う考え方は、「変動スピードが速く予測が困難で、要素が複雑、曖昧な結果」が当たり前の時代には合わない。それよりも消費者の感動と云う心模様を見る方に焦点を当てた方が、全体を括ることができて成果に結びつきやすい。「ロジカルに考え」「感性でジャンプ」が、これからのマーケッターの方法論である。まずは、顧客と企業が共創しやすい構造であるリテンション・マーケティングを踏切台とすることから始めるのがお勧めである。
筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月 株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月 株式会社価値総研取締役
2009年4月 株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月 アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月 日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)
お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局