もう二昔前の話であるが「通販ビジネス」に関する本を書いたことがある。通販の黎明期から発展期にかけて広告会社で通販企業を担当していたため、事業開始から定着・拡大まで様々な問題に対処しなければならなかった。そんな中で培ってきた知識とノウハウを一冊にまとめた。内容に興味を持ってくれた企業が、わが社の扉を叩いて取引が始まる事を期待しての本であったため、具体的で詳細な内容をあえて記載しなかったことが今となれば残念である。
当時の通販企業は差別化のできる商品を開発し、宣伝の方向性テストを繰り返し、円滑に運営できれば事業立ち上げから5年程度で十億円規模の売り上げを達成できた。稼いだ利益を投資に回し続けて行けば倍々ゲームで成長していった。折込チラシ、新聞広告、TV広告での新規顧客獲得コストも1万円以下のケースが続いていた時代であった。
新しい地平へ
21世紀に入ると多くの会社が通販のノウハウを学び、老舗企業も新興企業も同じ土俵の上で戦わざるを得なくなった。老舗は今までの既存顧客とのリテンションが機能し継続して購入してくれていたため、販売高の急激な落ち込みは避けられていたが、新興企業にとっては「新規顧客が簡単に獲れない、既存顧客はまだ少ない」と2重苦に悩まされるようになってきた。
老舗企業が既存顧客という資産で頑張る一方、新興企業は新規顧客を採れなくて苦戦している。そんな時ふと気づいた事がある。ノウハウの普及だけでなく人口減少もボトルネックになっているのではないか?住み慣れた高齢者しか存在しない「限界集落」、憧れのニュータウン居住者が高齢化した「限界団地」、それらが拡大して高齢者比率の高い「限界タウン」になっていくと考えると、その集合体としての国家も「限界国家」への門をくぐり始めたのではと思っている。その危機感が新しいビジネスモデルを考えるきっかけとなった。 日本の人口が減少していく。これまでブームを起こし大量消費を担ってきた若者が減少する事は、経済発展を担ってきた新規顧客が減少していく事に直結する。勿論、新しいビジネスであるSNS・フィンテック・ゲーム・eスポーツ・動画広告等への若年層の流れ込みによる特定分野の急拡大は実現するだろうが、既存ビジネスの分野では縮小が続くと考える。今まで獲得してきた既存顧客で食いつなぎ、グローバル対応やコンピューティングパワー(ビッグデータ、AI、量子コンピュータ)を活用した新規ビジネスで利益拡大を図る。この様な時代が到来することが予測されるため、既存顧客の離脱を防ぎ事業の運営費を稼ぎ出す事が重要となる。新しい環境に応じて新しい戦略を生み出し、新しい地平を目差す事、その戦略の一つがリテンションマーケティングである。
筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月 株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月 株式会社価値総研取締役
2009年4月 株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月 アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月 日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)
お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局