令和元年は、おめでたい行事や深刻な出来事が続けて起こった年だった。大きく動いた元年を終え、令和2年の幕が明けた。今年はオリンピック・パラリンピックも開催され、楽しみな半面大きな変化があるのではと少々気をもんでいる。個人的には、マーケティングに関して概念が変化するのではと思っている。その一つが、リテンションマーケティング協会と共同研究をしている日本消費者行動研究学会の指導教授から目から鱗の話を聞いたことである。昨年から本コーナーでもGDPR、SDG’sの影響でネットマーケティングやマーケティングの手法と概念が大きく転換すると書いてきたが、今回の話はもう一つ違う側面からの話である。話の内容はこうだ。
劇的な変化
今までのマーケティングは、まずSTPを考え、次いで4Pを検討していき、5W1Hを設定し、最終的なマーケティング戦略を立案してきた。しかし21世紀に入ってからITの驚異的な発達、Web環境の普及と拡大、やがては2025年のDX、そしてシンギュラリティと矢継ぎ早の変化が起こり、将来も変化が継続していくと予測されている。この流れの中で、デジタルでわかることが膨大に増加し、データ解析でターゲットが明確に規定できるようになってきた。購入者のデモグラフィック特性や購入履歴等も判明し、それをAIが分析するという事が可能となる。つまり、STP/4P/5W1Hは人間の頭脳で考える前にデータでわかってしまう。それは同時に、流行しているカスタマージャーニーも不要のものになるという事である。購入履歴をビッグデータで解析し、優良顧客像が明確になれば、その顧客に似た顧客を捕まえればいいのだから。簡単に言えば「いつか来た道」をもう一度歩くという方法である。その歩く道筋がカスタマージャーニーそのものである。
もう一つ驚いた話がある。弊協会が実施している毎月のセミナーの中で、講師が「ニーズを生み、育てる事がビジネスのベース」と語っていた。今までのマーケティングでは「ニーズは見つけるもの」と云われてきたからである。ニーズを発見するために様々な方法が開発され、グループインタビュー、コンセプト調査、インホーム調査、購入者追跡調査・・・を実施し、その中で潜在ニーズを発見していった。その中でいかにして潜在ニーズを顕在化させるかを考えていくことがマーケティングの主流であった。しかし現在では、夢を語り、商品の特長を納得させ、開発の苦労を述べ、商品に関心を持たせ好きにさせる事で、販売を達成していく手法が戦略の核となってきているようだ。 令和2年の大きな変化は、デジタルが普及するまでの時代とは大きく異なるマーケティングが生まれてくることである。そして、戦略検証の方法もPDCAからアメリカ空軍が採用し成果のあるOODAループへ変化していくと考えられている。マーケティング戦略の概念も検証の方法論も、今までの「当たり前」を越えて行く時代の幕が開ける。
筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月 株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月 株式会社価値総研取締役
2009年4月 株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月 アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月 日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)
お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局