リテンションマーケティングを考え始めたキッカケを思い出している。5年くらい前のことだが、ある企業から成長するための原則を教えて欲しいと依頼された。当時、日本の人口減少問題がマスコミをにぎわしていたことと、ネットECが驚異のスピードで進化していることとが頭の中で渦巻いていた。当たり前の事だが、人口が減れば新規購入者も減り、新規顧客獲得も困難になる。ネットECが普及すれば、EC参入の障壁が低くなり、新規参入企業が増加していくということは容易に察しがついた。人口減少と新規企業の参入増加という二つの要因が重なれば、顧客獲得が困難になることは自明の理である。新規顧客をあてにした成長は困難であると伝え、私自身もマス広告によるアクイジションマーケティングから、CRMを活用したリテンションマーケティングに舵を切った。

リテンションマーケティングを考える

では、リテンションマーケティングで何を獲得すれば、成功と言えるのか?既存顧客が離れていかないようにするためにCRMの質的・量的な向上が一つの答えである。CRMにより顧客との関係性を深め、顧客に好意を持ってもらうには、ロイヤルティ形成が重要である。しかし、ここでまた難題が潜んでいることにふと気づいてしまった。ロイヤルティと云っても「見せかけの行動ロイヤルティ」と「本当の心理ロイヤルティ」があるのでは?と。 

私ごとであるが現役バリバリの頃、イタリアの高級紳士服ブランドを毎年購入し、10年近く同じブランドを着続けていた。理由は簡単で、ふとしたことからそのブランドの縁故セールに招待されたからである。さすがイタリアの高級ブランドのため、周辺からは褒められた。当然、そのブランドに対するロイヤルティは高いと思われていたはずである。現役を退く頃にその縁故セールも終了になってしまった。そのブランドは今でもあるが、定価ではとても購入できないので、その後は購入していない。縁故セールが終了した途端にそのブランドから離れてしまったのだから、典型的な「見せかけの行動ロイヤルティ」であった。その行動に周囲の人たちが幻惑されただけである。

一方、「本当の心理ロイヤルティ」を考えると、自分のことでもよくわからなくなる。ずっと使い続けているブランドは?と考えてみても、家電のブランドもバラバラであるし、マイカーも決まったブランドはなかった。前向きな言い方をすれば、その時々の最適なブランドを選択してきたとも言える。この「本当の心理ロイヤルティ」をもっと研究する必要があると思っている。ワークショップを共催している消費者行動学会と「ロイヤルティ」「顧客エンゲージメント」「タッチポイント」等を切り口として、具体的施策に至る道を探している。まだまだやることが多いリテンションマーケティングである。

筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月  株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月  株式会社価値総研取締役
2009年4月  株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月  アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月  日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)

お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局