昨年の同じ時期と今年の春頃に、ロイヤルティについて書いた記憶がある。令和の最初の年なので、もう少し深掘りしてみる。これまでいろいろと整理してきたが、自分の頭の中ではブランディング(ブランド構築)とロイヤルティ(心理形成)が混在し、明確に区分されていないことがネックである。前にも書いたが、広告業界で長く働いていたため、予算が獲得できるブランディングについてはいろいろと経験してきたが、ロイヤルティについてはマーケティング施策の結果とか見ていなかった。今回はブランド、ロイヤルティ、時代の流れ、と複眼で探ってみる。
ここで難しいのが、ブランド構築の結果もロイヤルティ形成の結果も、ゴールは継続購入だという事である。どちらも消費者の行動として「継続して購入」することであり、それを下支えする心理として「ブランドが好き」という側面があるために、行動と心理が混ざり合い区別が困難になっている。
ロイヤルティにはまる
ロイヤルティを考えていた時に新しい発見もあった。通販業界の人と話していて気づいたことだが、ロイヤルユーザーとロイヤルティが高い人とは、似て非なるものであるということである。ロイヤルユーザーとは「継続購入をしてくれる顧客」であるが、継続購入理由としては、「安いから」「手間を省けるから」「解約すると損をするから」「なんとなく惰性で」等、金銭面や行動面の理由が多くあり、そこに「嫌いじゃないから」「高価を感じるから」と云った心理面が付加している、という新しい視点を見出すことができた。
ロイヤルティ形成の現在の状況はどうなのか?政府が金融機関の将来変化を提言したことによって、金融機関でも資産形成商品の販売を「商品販売数や販売額」よりも、「長期的な時間軸による信頼構築」を重視するようになってきている。企業側から見た「売りたい商品」ではなく、顧客側から見た「必要な商品」を販売していく方向へ転換し、営業マンの評価も「商品販売数・額」から「顧客の資産増加割合」へと転換し、ロイヤルティ形成に目を向け始めている。
令和の時代は、商品や支払い場面で、「販売から使用へ」「購入から加入へ」「都度回収から分割回収」に大きく変化していくと予測されている。「得する、面倒だからという行動面のロイヤルユーザー」を「好きだからという心理面のロイヤルユーザー」に進化させなければ、購買形態がサブスクモデルに変化する時代に適応できずに取り残されてしまう。あらゆる接点で企業と顧客を強くつなぐことが、企業にとっての競争軸となる時代が始まっている。顧客に寄り添うリテンションマーケティングを活用し、顧客の利益を最大化する関係性の構築が、真のロイヤルユーザー育成していくことに繋がる。ロイヤルティについての思索は終わることがなさそうだ。
筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月 株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月 株式会社価値総研取締役
2009年4月 株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月 アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月 日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)
お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局