「ブランディング、ブランドロイヤリティ、ブランド価値・・・」。近頃、20世紀末に流行った言葉が復活している。通販の一般化、ECの拡大で短期利益の獲得が命題となっていくにつれ、ブランド価値を上げるよりも購買の動機づけによって売上を達成することが重要となった。結果、コンバージョンの方がブランド価値よりも重要視され、マーケティングフィールドからブランド関連の言葉が消えていったが、2015年頃より再びブランド関連の言葉をよく耳にするようになった。
動機づけによる瞬間の購入が重要なことは言うまでもないが、技術の高度化と生産の効率化によって同じ機能の商品が巷にあふれるようになった。社会の高齢化に合わせ、通販コスメは「シミ・シワ・タルミ対応」のエイジングケアコスメばかりになり、通販サプリでは「老眼・頻尿・筋肉・関節・脳の老化抑制」のエイジングケアサプリが市場を席捲している。同じ機能の商品が横並びになった結果、動機づけをより強力にするために薬機法(旧薬事法)や景表法に抵触する表現が多くみられるようになり、消費者から表現と商品が信用されなくなった。
昔の名前で出ています・・・
そんな中で、再び注目を集めたのがブランドである。商品機能に差がつけられなければ、製造しているメーカーが差別化と優位化を図ればよい。メーカーに「歴史がある・優れた商品を販売している・特許を持っており研究開発力が抜群・技術力は世界レベルとの定評がある」等で競合企業との優位化を図ることに注力し始めたのが2015年頃である。いわゆる、研究開発広告・事例報告広告と云われるものが徐々に増加し、ブランド周辺に関心が集まりだした。
ただし、今までとの違いは、日本人全員にブランドを認知させることではなく、自社の顧客とその周辺顧客にブランド浸透を図っていった事である。ネットでPR施策を展開したり、SNSで評判の拡散を狙ったり、リターゲティング広告によって興味のあるターゲット層を限定して接触し、ブランド価値を創造する手法に変わりつつある。ブランドの持つ多くの機能の中で初歩的な「識別機能と保証機能」(あっ!この会社、この商品なら安心)に重点を置いていることにも留意しておくことが必要である。
コミュニケーションの方法も、大量予算で幅広くの顧客を対象とするマスマーケティング手法ではなく、顧客やその周辺層に発信し、到達する人を選別しながら実施していくリテンション・マーケティング手法が採られている。「昔の名前で出ています・・・」であるが、狙いと運用方法は様変わりしている。
筆者プロフィール
伊藤 博永(いとう ひろなが)
1993年3月 株式会社旭通信社(現:株式会社ADK)入社
2001年4月 株式会社価値総研取締役
2009年4月 株式会社ADKダイアログ代表取締役
2012年1月 アディック株式会社取締役(現任)
2015年9月 日本リテンション・マーケティング協会理事(現任)
お問合せ先 一般社団法人 日本リテンション・マーケティング協会事務局